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書籍名:なぜイギリスは実名報道にこだわるのか−英国式事件報道 ペーパーバック版−
Outline書籍の概要
日本の記者がイギリスの報道を学ぶため留学した。長い民主主義の伝統のもとメディアも洗練され、下世話な犯罪報道や、個人のプライバシーに踏み込むニュースはなく、社会制度や政治を論じていると思ったら…。
イギリス式の事件報道は激烈だった。
新聞もテレビも、事件の被害者、容疑者、その家族の詳細なストーリーをこれでもかと展開する。連続殺人の女性被害者5人の実名、顔写真はもちろん、職業は「売春婦」と明記されていた。両親の留守に乱痴気パーティで自宅を破壊してしまった少女、難破した貨物船からこぼれだした荷物をネコババしようと海岸に詰めかけた人々、日本では「こんなのニュース?」と思う話も連日大展開。そして、どんな人でも実名、実名、実名。高級紙もBBCも、ニュースは全て実名である。
なんでこんなことに?日本でこんなこと無理…
だが、そこにはイギリスの記者たちのジャーナリズム哲学があった。「ニュースは人間を書くものなんだ」。市民が市民を知る価値、市民の歴史を残す意味…。
売春婦連続殺害事件を追う時々刻々の報道合戦、極右政党潜入ルポの容赦ない人間描写など、イギリスのメディアを克明に再現する。そして「何でこんなことに?」を探るため、記者、編集者、犯罪被害者支援団体、警察を訪ね、日本の報道現場と比べながらインタビュー。息をつかせない展開でイギリス式事件報道の世界を案内する。
そして、実名が嫌われ、匿名社会に突き進む日本の行く末は−−。
本書所収のインタビューから
「遺族の家をノックするのはいつも困難、まったく嫌なことよ…でも友達や近所の、多くの人が彼女の話を聞かせてくれた。それを書いたことで、彼女がもっともっと人間として世間の人に見てもらえるようになったと思う」(エスター・アドレー「ガーディアン」紙記者)
「売春婦と呼べば、売春婦というだけで終わる。戦場で敵を撃てるのは、ただ「敵」というだけだから、名前のある人間じゃないからだ」(ティム・ビショップBBC東部放送局長)
「ある道路の状態が悪くて事故が多発し、3人もの人が死んだとする。メディアは亡くなった人たちの名前を知り、家族に取材し、道路の近くに住む人たちに取材をし、どう考えるかを尋ねて当局を動かす必要がある。イギリスではプレスは多くの方法で国を支えているんだ。我々は最良の監視者であり、政府にとっては野党となる」(マイク・サリバン「サン」紙犯罪担当記者)
「人間として描く(ヒューマナイズ)ことだ。人々は人間に反応する。自分かも知れないと思うからだ」(ボブ・サッチェル英国編集者協会専務理事)
本書は、2010年に文藝春秋から発売した『英国式事件報道 なぜ実名にこだわるのか』にペーパーバック版のあとがきを追記した新装版です。(Kindle版は、現在も文藝春秋で発売中 https://www.amazon.co.jp/dp/B00PBLFAO4 )
Contents目次
父と娘と容疑者― 序に代えて
1章 ニュースの中の人々
- 1 売春婦たち
- 2 偽装記者
- 3 パーティは事件だ
2章 ニュースを書く人々
- 1 私が旅に出た理由
- 2 人として描く―ガーディアン記者 エスター・アドレー
- 3 「売春婦」を美しい言葉でごまかすな―BBC東部放送局長 ティム・ビショップ
- 4 ニュースは人間― サン犯罪担当エディター マイク・サリバン
- 5 悩むけれど、これが仕事―イブニング・スタンダード記者 キラン・ランダワ
- 6 人として報じること、それが考えさせる記事になる―編集者協会専務理 ボブ・サッチェル
3章 ニュースと向き合う人々
- 1 新聞出版苦情委員会(PCC)―報道トラブル、目指すは「和解」
- 2 警察―モットーは「オープンであれ」
- 3 犯罪被害者―「メディアは常に注意深くあってほしい」
4章 匿名社会と報道
- ニュースは歴史の第一稿
- 許可されない報道
スローなジャーナリズム―あとがきに代えて
謝辞
発信する個人と匿名志向のあいだ―二〇一九年ペーパーバック版へのあとがき
参考文献
解説 森 達也